Nスペによる名誉毀損問題
~戦後80年番組・NHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」~
NHKが8月16日と17日連続2夜、放送した戦後80年関連番組NHKスペシャル「シミュレーション」のドラマに登場する「総力戦研究所」所長をめぐって、実在人物の飯村穣所長の孫で、元駐仏大使の飯村豊氏は、祖父の人物像が誤った描写でゆがめられ、死者の名誉が毀損され、遺族の敬愛追慕の感情が著しく侵害されたとの理由で、NHKや制作会社及び脚本執筆、演出を担当した石井裕也監督らを被告として、550万円の損害賠償請求訴訟を2025年12月24日、東京地裁に提起しました。


「歴史は真実を描いてこそ、未来への力になる」
主任弁護士 梓澤和幸
この裁判が戦後80年の年末に提起されることの意味を強調したい。
世の中の空気が開戦に流れてゆくとき、学識と良心にもとづき、それに反対した総力戦研究所の研究生たち。「日米戦争は必敗。戦争の被害は甚大だ」と主張したが退けられた。
飯村穣所長も学識と良心にもとづき、研究生たちの自由な討論を導いた。
日米開戦の直前に、戦争の是非を巡って、自己の見識と良心を披瀝し、開戦に反対した影響力ある人物がいたことを伝えることはマスメデイアの大切な役割です。
「歴史は真実を描いてこそ未来への力になる」
そのことの重大性をNHKほか各社、石井監督に反省して謝罪してもらい、視聴者のみなさまにもそのことを考えていただきたい。裁判をその機会としたい。
いろいろな困難を押して裁判に立ち上がった原告の言葉と姿を生き生きと伝えて下さい。
「今」という時代を共有している飯村穣さんのことを伝えていただきたい。

東京地裁に入る原告と弁護団 2025/12/24

主任弁護士 梓澤和幸さん(82)

飯村穣さんの遺影を立てて、記者会見を行う
発 端
「シミュレーション」の構想の始まりは、2020年以前のこと。
「毎日新聞」のインタビュー記事によると、監督の石井裕也氏と俳優の池松壮亮氏の2人が「戦争」を題材にした映画制作を計画したことが事の始まりだったといいます。
2017年の主演作の映画「夜空はいつでも最⾼密度の⻘⾊だ」でベルリン国際映画祭に参加した際、たった1⽇だけできた休⽇を使い、⽯井監督と2⼈でポーランド南部のアウシュビッツ強制収容所跡を⾒学した。「そこで話し合ったこと、平和とか、愛とか、そういうことを、何年も⼀緒に物語を作りながら願ってきたと思います。その⼀つの答えとして今作『シミュレーション』にたどり着き、素晴らしい仲間と終戦80年のタイミングで発表できる。その意義やありがたさをすごく感じます」。
その後、2人は2022年ごろ松竹へアプローチ。しかし、クランクインまで漕ぎ着けるも何らかのトラブルで撮影中止になったそうです。NHKが本件に関与したのは、NHK関係者によれば2023年。池松氏がNHKに協力要請をしたことで映像化企画がスタート。この時、NHKエンタープライズやポニーキャニオンなど5社が参加し、ドラマの放送と映画上映の合わせ技で進められる構想が定まったとみられます。
水面下の展開
ここから先、通常ではあまり考えられない形で展開されていきます。
「シミュレーション」はドラマパートと短いドキュメンタリーパートが合わさった番組で、飯村氏もドキュメンタリーパートではロケに出演されていました。
普通ならドラマとドキュメンタリーの制作は同時に進行し、ドキュメンタリー取材で得た情報をドラマにフィードバックしながら進んでいきますが、今回は違ったのです。
飯村氏がNHKから初めて取材の打診を受けたのは2024年夏のこと。
この時はドラマ「シミュレーション」とは別で、外部の制作会社が終戦80年企画として飯村中将を扱ったドキュメンタリー企画の提案を出すにあたって、協力要請があったそうです。
しかし、その番組提案は不採択。
これで企画自体が立ち消えになったと思いきや、2025年明けに事態は一転。先の制作会社から「10分のドキュメンタリー2本分の制作をすることになった」と飯村氏宛に連絡がありました。
この流れで飯村氏のインタビューロケは7月に行われます。
一方、ドラマ「シミュレーション」のクランクインは2025年3月末に発表。
吃驚仰天
その飯村氏がドラマについて初めて知ったのは、2025年7月21日のこと。
7月16日付でNHKから発表された告知文・リリースを目にして吃驚仰天でした。
NHKのリリース(7月16日付)は現在NHKのサイトでは削除だが、
他の映画や放送関連のHPで消えておらず、今も同様の内容を確認できます。

飯村氏は翌日の7月22日に、ドキュメンタリー制作者経由でNHKに対して、問い合わせを行いました。さらに、翌日となる7月23日に、ドラマの制作統括や制作陣の幹部らと面会し、7回の協議を行った。
しかし、NHKは「すでに番組は完成していて、セットも廃棄済のため、撮り直しや大幅な修正は不可能である」として、根本的な修正を行わずにテロップとナレーションによる最小限の対応にとどまりました。
時間切れ
飯村豊氏は、7月23日、25日、29日、8月1日、5日、7日、8日の計7回、NHKスペシャルの制作陣幹部と協議したところ、以下の妥協案が示されました。
①番組の冒頭に15秒のお断りテロップを入れる
これは「昭和16年夏の敗戦」(猪木直樹著)を原案に創作を加えたドラマです。
総力戦研究所の所長および関係者はフィクションとして描かれています。
ドラマに続き、番組後半に総力戦研究所の史実を伝えるドキュメンタリーがあります。
②番組はドラマとドキュメンタリーの2部構成で、ドキュメンタリーの部分で、史実に沿う内容を入れて、「ドラマの板倉所長は物語上の創作で飯村穣氏とは関係ありません」とのテロップを入れて伝える。
しかし、1時間の内の50分間(×2夜)のドラマの内容について、NHK側は飯村豊氏に対して、「事前に台本は見せられない」として一切開示されずに、飯村豊氏もリリースにある「所長は“最大の壁”となっていく」以上の情報がなく、実際、所長がどのように描かれているか知る由もなかったのです。
つい、時間切れとなり、放送当日に突入……
ドラマにも描かれたように、「軍服を作ったから戦争しないと行けない」とか「海軍が戦争の為の予算を獲得したから」とか、あの戦争を反省するために作ったにもかかわらず、制作陣としては豪華キャストなどで作ったドラマをやめるわけにはいかず、テロップや編集など“小手先”の対応で(産経新聞8月23日)放送を決行したのであります。
戦前も今も、この体質は全く変わっていません。
残るのは、敗戦処理か。
終戦80年 NHKスペシャルは歴史の冒瀆だ 総力戦研究所所長の孫が怒りの告発
(文藝春秋 一〇月号)
<告発>NHKの二枚舌 戦後80年ドラマは歴史の歪曲だ(「正論11月号)

